日本古来の漢方や中医学とも違う、新しい漢方ともいうべき「井上流漢方」について説明します。患者さんの気の流れをみて気を整えることを第一義とする「井上流漢方」を名古屋の井上先生の外来から報告します。
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041. 補中益気湯

【生薬構成】
人参4、白朮4、黄耆4、当帰3、陳皮2、大棗2、柴胡2、甘草1.5、生姜0.5、升麻1 (g)
*補中益気湯=中を補い気を益すという意味。中は中焦で胃腸のこと。
最も優れた哺気剤として『医王湯』とも言われます。
黄耆は表を固めて汗を止めます。人参は脾胃を補い元気を与えます。柴胡と升麻は引き上げる作用があります、これを升堤作用といいます。

【原典】
金の李東垣の《内外傷弁惑論》

【古典】
浅田宗伯の《勿誤薬室方函口訣》には
『此方は元来東垣が建中湯、十全大補湯、人参養栄湯などを差略して組立てし方なれば、後世家にて種々の口訣あれども、畢竟小柴胡湯の虚候を帯ぶる者に用ふべし。補中だの、益気だの、升堤だのと云う名義に泥むべからず。その虚候と云ふものは、第一手足倦怠、第二言語軽微、第三眼勢無力、第四口中に白沫を生じ、第五食味を失ひ、第六熱物を好み、第七臍に当つて動気、第八脈散大にして力なし等の八症の内、一二症あれば、此方の目的となして用ふ。その他薜立齋がいはゆる飲食労役して瘧痢(ぎゃくり)を患ふ等の症、脾胃虚に因つて久しく愈ゆる能はずだの、龔雲林のいはゆる気虚卒倒中風等の症、内傷に因る者だのといふ処に着眼して用ふべし。前に述ぶる通り、少陽柴胡の部位にありて、内傷を兼ぬる者に与ふれば間違ひなきなり。故に婦人男子共に虚労雑症に拘らず、此方を長服し効を得ることあり。婦人には最も効あり。また諸痔脱肛の類、疲れ多き者に用ふ。またこの症にして、煮たてたる熱物を好むは附子を加ふべし。何ほど渇すといへども附子苦しからず。』とあります。
*建中湯、十全大補湯、人参養栄湯から作ったとあるのでこれらの漢方が鑑別に挙がります。以下参照。
*小柴胡湯の虚証なので、少し肝に熱があって、胸脇苦満があります。
*8つの目標は津田玄仙が《療治茶談》で挙げたもののようです。どの教科書にも載っていて有名です。以下参照。
*痔、脱肛、子宮脱にも引き上げる作用があるので使えます。

【先人】
・中気下陥・清陽不升による諸症状、脾不統血による出血、気虚の発熱 《秋葉哲生:活用自在の処方解説》
・消化機能が衰え、四肢倦怠感が著しい虚弱者の次の症例:夏痩せ、病後の体力増強、結核症、食欲不振、胃下垂、感冒、痔、脱肛、子宮下垂、陰萎、半身不随、多汗症。《高山宏世:漢方常用処方解説》

【井上流】
・処方構成からすると六君子湯と同じ補気剤で、同時に柴胡剤でもある。黄耆、当帰も配されており補血の効果にも優れており、補剤の王者として医王湯の名がある。しかし、気虚の程度の著しい時は、補気剤の基本である四君子湯を投与し、土台を固めた後に用いたほうが良いことが多い。
1 病後回復の代表的薬方………手術後 放射線治療後 慢性疲労 体調不良
               風邪をひきやすい 風邪が治らない
               夏バテ 虚弱体質 低血圧
2 中気下陥を改善する ………胃下垂 遊走腎 脱肛 子宮脱 便秘
 [内臓下垂]            
3 元気をつける    ………神経症 鬱状態 鬱的気分を払う
  
4 慢性疾患を治す   ………慢性肝炎 痔疾 慢性胃腸炎 気管支炎
               慢性蕁麻疹 湿疹 アトピー
=使用目標=
A 眼に力が無い 語尾がはっきりしない 疲れやすい 前屈みの姿勢 胃腸虚弱、痩せ
B 発汗しやすい 寝汗 微熱 口渇 口唇赤 乾燥 舌白苔 口臭 
C ほっそりとした体つきで色白が多い 油もの、くどいものを嫌う
D 軽い胸脇苦満 心下虚 内臓下垂 臍周囲膨満 《以上;柴胡剤の活用法》

・六君子湯証との鑑別:六君子湯は気を下げて、軽く熱を取る(身熱が軽い)、補中益気湯は気をあげて、身熱を取る(身熱が明瞭)《柴胡剤の活用法》

・清暑益気湯との鑑別:両方とも夏バテに使うが、清暑益気湯は、口渇、手のほてり、胸が熱<胸苦しい、尿の色が濃いなど、身熱心煩症状が著しい。足三里の圧痛、両臍傍の天枢辺りの圧痛などを目標にする。補中益気湯は胸脇苦満、右背部(肝臓部の)膨隆などを目標に用いる。 《夏バテの一般的漢方治療》

・十全大補湯との鑑別:十全大補湯は、全身の衰弱、疲れやすさ、微熱、自汗、皮膚の枯燥、胃腸虚弱が目標。補中益気湯のように胸脇苦満がない。《気血両補剤の活用》

・小児では、身熱(口が臭い・目やにが出る・舌に白苔・舌先が赤い・口内炎・発疹)を目標に用いる。急性発疹性疾患・風邪熱がなかなか取れない時・気管支炎・蕁麻疹・アトピーなど。極めて使いやすい柴胡剤。長引く風邪、蕁麻疹、アトピーなどに使用の機会が多い。《小児科領域の漢方治療》

・建中湯類と補中益気湯の鑑別が難しいことがありますが、井上先生によると『夏に布団の外に手足をだして寝る人』は建中湯証だと言っていました。
もちろん、言霊診断やPTMができれば鑑別に困ることはありません。

【Dr.サントのコメント】
*以下のコメントはあくまで私、Dr.サントのものですので私に文責があることを断っておきます。
・津田玄仙の8つの目標はあまりにも有名ですが、ほとんどが気虚を表す症候なので補中益気湯に特徴的ではなさそうです。建中湯、十全大補湯、人参養栄湯でも同様な症候があります。あえて言えば、⑤味がわからない、⑧脈が芤脈の2つが特徴的です。右の関上の脈で一見力があるが押すとぺこっとへっこむ場合に効く印象があります。

・あくまでサントの印象ですが、疲れを訴える方は、補中益気湯証より建中湯証の患者さんがはるかに多いと思います。この点は、井上先生の外来を見ていてもそうです。疲れがあれば=補中益気湯と、いうのではなく、きちんとした鑑別が必要です。津田玄仙の8つ目標が、ある意味、混乱の原因になっているような気がします。

・井上先生の言うように身熱があって、胸脇苦満があることがもっと注目されてもいいとおもいます。サントの印象ですが、補中益気湯は比較的新しいストレスと戦って疲れがたまっている状態、ストレスと戦っているので身熱がある。建中湯はもっと古くからの疲れが体にあって虚労という体質に近いものになった状態、そんな印象を持っています。

・十全大補湯は川芎が入っているので別の意味で瀉的効果があるようです。

・人参養栄湯については別に書いていますので見ていただければとおもいます。

・当院に両耳の難聴と耳鳴りで通院中の30代男性ですが、疲れがあって、下半身が重たい、というので補中益気湯を処方したら、飲んだ直後にカアッとほってて耳鳴がきつくなったと言われたことがあります。現在は女神散で落ち着いています。この例で、補中益気湯が気を上げる効果があることがハッキリとわかりました。敏感な患者さんの話をよく聞くと漢方の作用がよくわかります。

【症例にリンク】
症例1. 


【2013/02/24 23:30】 | 漢方解説
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