‐中国医学史‐続き
方剤の原典を問う問題についての対応
『傷寒論』と『金匱要略』にでる処方は問題集をやっていれば何となく覚えてくる。
「黄連解毒湯」の様に単発で出てくる処方も問題集をやれば大体覚える。
問題は『和剤局方』と『万病回春』に出てくるもの。
これは、多いので紛らわしい。
そこでこの再、覚えてしまいましょう。
あえて、むりやり覚え方を書いてみると。
とりあえず和剤を覚えれば、のこりが万病なのでOKです。
・まず、『和剤』(宗代)が『万病』(明代)より古いということ。すると、古いものはだいたいシンプルな処方が多くなる。
・二陳湯、四物湯はシンプルで和剤、これを足して複雑にしたものが
六君子湯で万病となります。
・四はすべて和剤。
・五がつく散は和剤。湯は万病。
・二は両方に出ますが、痛みを取るのは疎経活血湯と一緒に万病
・平・安は和剤、平胃散の発展処方の胃苓湯は万病。
・参・香・川の風邪薬は和剤
・十・人・大の十全系統は和剤
・尿に関係する清心蓮子飲と五淋散は和剤となります。
・一方、痛み(88、53)、下痢(43、79、128)便秘(51、105)、瘀血(105、230)、咳(90~93、95)、皮膚(57、58、101)関係は万病となります。
*加味逍遥散については、問題集でも原典があいまいだったのでここではあげませんでした。ただし、逍遥散は和剤が原典です。
和剤局方 | 二陳湯、 四君子湯、四物湯、 五淋散、五積散、 安中散、平胃散、 参蘇飲、香蘇散、川芎茶調散、 十全大補湯、人参養栄湯、大防風湯、 清心蓮子飲、 *逍遥散 |
万病回春 | 二朮湯、疎経活血湯、 五虎湯、 六君子湯、 胃苓湯、啓脾湯、 潤腸湯、通導散、芎帰調血飲、 清肺湯、竹茹温胆湯、滋陰至宝湯、滋陰降火湯、 温清飲、清上防風湯、升麻葛根湯 |
‐中国医学史‐つづき‐
前回、アップしましたブログ内の、
「書籍名」と「人名」の読み方を記載します。
これが意外と難しい。
ここでは、あくまで日本語読みをしめしました。
黄帝内経:こうていだいけい
扁鵲:へんじゃく
傷寒論:しょうかんろん
金匱要略:きんきようりゃく
華佗:かだ
王叔和:おうしゅくか
皇甫謐:こうほひつ
陶弘景:とうこうけい
葛洪:かっこう
孫思邈:そんしばく
王燾:おうとう
王冰:おうひょう
許叔微:きょしゅくび
厳用和:げんようか
銭乙:せんいつ
丹波康頼:たんばのやすより
医心方:いしんぽう
劉完素:りゅうかんそ
張子和:ちょうしわ
李東垣:りとうえん
朱丹渓:しゅたんけい
危亦林:きえきりん
成無己:せいむき
李時珍:りじちん
龔延賢:きょうていけん
陳実功:ちんじっこう
保嬰撮要:ほえいさつよう
薛鎧:せつがい、薛己:せっき(父子です)
張三錫:ちょうさんしゃく
皇甫中:こうほちゅう
温疫論:おんえきろん
呉有性:ごゆうせい
田代三喜明:たしろさんき
曲直瀬 道三:まなせどうさん
許浚:きょしゅん(韓国語では:ほじゅん)
‐中国医学史‐
試験に関係する、中国医学史を「出典」と「方剤」を中心にまとめました。
方剤はツムラのエキス剤を入れました。
出典は秋葉先生の『活用自在』を参考にしました。
また、『中国医学の歴史』(東洋学術出版)も参考にしました。
春秋戦国(前770年~) | 伝説の名医「扁鵲」が活躍 ・『黄帝内経‐素問、霊枢』(作者不明;中国医学の基礎、陰陽五行説) | |||
前漢・後漢(前202年~) | ・『難経』(著者不明;黄帝内経の理論を整理し発展) ・『神農本草経』(著者不明;最古の薬物学書) ・『傷寒雑病論』(張仲景;後に『傷寒論』と『金匱要略』に分冊化) | |||
・『傷寒論』→ (急性病) | 柴胡加竜骨牡蠣湯、小青竜湯、麻黄湯、真武湯、人参湯、四逆散、当帰四逆加呉茱萸生姜湯、麻杏甘石湯、桂枝加芍薬湯、桃核承気湯、 芍薬甘草湯、調胃承気湯、桂枝人参湯、猪苓湯合四物湯、黄連湯、麻子仁丸、麻黄附子細辛湯、桂枝加芍薬大黄湯、 | (両方に出る方剤) 葛根湯、大柴胡湯,小柴胡湯、柴胡桂枝湯、柴胡桂枝乾姜湯、半夏瀉心湯、五苓散、小半夏加茯苓湯、呉茱萸湯、白虎加人参湯、苓桂朮甘湯、猪苓湯、桂枝湯、炙甘草湯、小建中湯、大承気湯、茵蔯蒿湯、桔梗湯 | ||
・『金匱要略』→ (慢性病) | 八味地黄丸、半夏厚朴湯、防已黄耆湯、当帰芍薬散、桂枝茯苓丸、桂枝加竜骨牡蠣湯、越婢加朮湯、麦門冬湯、大黄牡丹皮湯、木防已湯、茯苓飲、甘麦大棗湯、芎帰膠艾湯、麻杏薏甘湯、大黄甘草湯、黄耆建中湯、大建中湯、酸棗仁湯、温経湯、三黄瀉心湯、茵蔯五苓散、苓姜朮甘湯、苓甘姜味辛夏仁湯、三物黄芩湯、当帰建中湯、桂枝茯苓丸加薏苡仁、 | |||
このころ名医「華佗」が活躍 | ||||
南北朝(後220年~) | ・『脈経』(王叔和;脈診についての書) ・『甲乙経』(皇甫謐;最古の鍼灸専門書) ・『本草経集注』(陶弘景;本格的本草書) ・『肘後備急方』(葛洪) | |||
隋・唐(581年~) | ・『千金方』(孫思邈)→ 当帰湯 (『千金方』とは『備急千金要方』と『千金翼方』の略称)) ・『外台秘要方』(王燾)→ 黄連解毒湯 ・『補注黄帝内経素問』(王冰;黄帝内経の優れた注釈書) 754年、鑑真が日本に渡る。⇒ 日本に医薬の知識を伝える。 | |||
宗(960年~) | 印刷技術の発展で出版が盛んとなる。 ・『太平聖恵方』(政府編纂) ・『聖済総録』(政府編纂) | |||
・『和剤局方』(国定処方集)→ | 二陳湯、四君子湯、四物湯、五淋散、五積散、安中散、平胃散、参蘇飲、香蘇散、川芎茶調散、十全大補湯、人参養栄湯、大防風湯、清心蓮子飲 | |||
・『本事方』(許叔微)→ 釣藤散 ・『済生方』(厳用和)→ 帰脾湯、牛車腎気丸、当帰飲子 ・『小児薬証直訣』(銭乙;小児科書)→ 六味丸 984年、わが国では丹波康頼が『医心方』の編纂 | ||||
金・元(1115年~;一部南宋と重なる) | 金元の4大家の活躍(劉完素、張子和、李東垣、朱丹渓) ・『脾胃論』(李東垣;補土派)→ 補中益気湯、半夏白朮天麻湯 ・『内外傷弁惑論』(〃) ・『蘭室秘蔵』(〃) ・『宣明論』(劉完素;寒涼派)→ 防風通聖散 ・『世医得効方』(危亦林)→ 柴苓湯 ・『注解傷寒論』(成無己;傷寒論の最古の注解書) | |||
明(1368年~) | さらに、出版物が豊富になる ・『本草鋼目』(李時珍;本草百科全書) | |||
・『万病回春』(龔延賢;内科書)→ | 二朮湯、五虎湯、六君子湯、胃苓湯、啓脾湯、潤腸湯、通導散、温清飲、清肺湯、竹茹温胆湯、滋陰至宝湯、滋陰降火湯、疎経活血湯、芎帰調血飲、升麻葛根湯、清上防風湯 | |||
・『済生全書』(龔延賢)→ 加味帰脾湯 ・『外科正宗』(陳実功;外科書)→ 消風散、辛夷清肺湯 ・『保嬰撮要』(薛鎧、薛己;小児科書)→ 抑肝散 ・『医学六要』(張三錫)→ 清暑益気湯 ・『明医指掌』(皇甫中)→ 薏苡仁湯 ・『温疫論』(呉有性;温病学の基礎) 1498年、田代三喜明より帰国 ⇒ 曲直瀬道三につながる。 1611年、朝鮮李朝の許浚が『東医宝鑑』を著して朝鮮医学を集大成した。 |

40代男性
腎癌の手術、抗がん剤の治療を受けて、
その後調子が悪くて、2か月前からかかっている方。
顔色が白かったが、少しピンクがかってきている。
声も張りが出てきている。
井上内科では2か月前から人参養栄湯をずっと煎じで出ていた。
☆。,・~~・,。★。,・~~・,。☆。,・~~・,。★。,・~~・,。☆
『どんな具合ですか?』
「変わらずです」
『少しいいことない?』
「それは、すこしはいいです」
『顔色いいよ。残尿感とか、だるさとか、まだある?』
「徐々にはなくなってきていますが」
『漏れるのはすこしはいい?』前医では、尿の症状なので竜胆瀉肝湯が出ていたのですが、体が弱ってしまっていたので井上内科では人参養栄湯がでています。
『急に寒くなったから体気を付けてね。舌出して』と、舌診をします。
『体が弱っていたので、まず益気しないといけないので、人参養栄湯にしていんですが。』と、説明してくれる。
『横になって』と、腹診のために横になってもらう。
腹診をしながら『ちょっと右の滞りが出てきているよね、肝のね。』
確かに、以前はなかった、右の側腹部にすこし抵抗があります。
『もう、そろそろね、大分いいね』ここで言霊診断をしました『例えば、人参養栄湯をのみました。これは背中はいいんだけどね。それじゃ、酸棗仁湯を1日1回飲みました...これ合ったほうがいいよね。右のところの流れ良くなるよね。』
「はい」と、患者さんも言います。
『それじゃ、だいぶよくなったから、人参養栄湯も粉にして、それで酸棗仁湯を夜に足すと、右の流れがいいからね...』
「右の下腹のツッパリがあるんですが」と、患者さんが言います。
『そうやね、でも、竜胆瀉肝湯はまだきついのよ。酸棗仁湯をたして、もうちょっと様子を見させてもらおうかな...今日から人参養栄湯も煎じから粉にするから、体調が悪い時は煎じに戻ってくれる。』
「はい、わかりました」
『だいぶ落ち着いたね』
「ありがとうございます」
*::*::*::*::*::*::*::*::*::*::*::*::*::*::*::*::*::*::*
そして今回は人参養栄湯をエキスにして、酸棗仁湯を1回夜に加えました。
井上先生のコメント
・『体がよくなってきて、肝に滞りが出てきた。人参養栄湯で心を補いながら、酸棗仁湯で肝の滞りをとる。』
体がへたばっているときは左にとどこおりが出て、元気が出てくると右に移ってくると言われています。
・酸棗仁湯は肝の滞をとるのですか?と、いう質問すると『心配し過ぎて寝れないような人ね、知母があって酸棗仁があって、肝のとどこおりが取れる。柴胡までも行かないけどね。柴胡の手前の薬。』
さて、今日は受験用の参考書について書いてみます。
目標は、無駄を省いて効率よく受かることです。
受験を考えておられる先生の参考になれば幸いです。
問題集とテキスト
・『専門医研修コアカリキュラムと問題と解説』: これは必須。時間がない時はこれのみでも合格できる。3回やれば8割以上とれる。
・『専門医のための漢方医学テキスト』: ざっと目を通すとよい。問題集を補充するように使う。《Ⅳ.症候から見る漢方》、《Ⅴ.症例から見る漢方》、《Ⅶ.鍼灸(鍼灸選択者は別)》は不要。
*上記参考書はかさばるので分冊化すると便利です。本の背をアイロンかライターで熱すると接着剤が緩むので必要な部分だけ分冊化できます。サントは問題集は2つに分けて、テキストはⅠ‐Ⅱ、Ⅲ、Ⅵのみばらして使いました。
お勧め参考書
日ごろから漢方を使っているならば、上記のみで合格できます。しかし、参考のためにサントの使ったお勧め参考書を挙げると;
・『活用自在の処方解説』: 秋葉先生の本ですが、出版された時から持ち歩いて愛用してます。ツムラの方剤の順番に従って各方剤の要点が簡潔に記載されています。簡にして要を得て、奥が深い。試験用には、「出典」、「構成生薬」が役にたちました。
・『臨床応用漢方処方解説』: 有名な矢数先生の本。代表方剤について詳述されている。方剤について詳しく知りたいときはこれを読む。巻末に、生薬の基原、薬能、薬効、用途をまとめた表があるが、これも役に立つ。コピーして別冊子にして利用しました。同様に巻末に引用文献として、中国、日本の古典と著者のリストが上がっていますが、誰が何を書いたのか知りたいときに役に立ちます。特に江戸時代の漢方医のところがいい。
・『生薬処方電子事典Ⅱ』(木下武司、山岡法子): 生薬の基原、成分、効能などが写真入りで見れるので便利。なんといってもパソコン上なので検索が早い。さらに、方剤の説明も原典と古典の引用まである。これをコピペすると、願書につける症例報告ができる。ありがたいソフトです。
・『傷寒論をあなたのパソコンへ』(homepage3.nifty.com/kojindo/unide.htm): 傷寒論は必ず出るのでマークすること。でも、分厚い解説書をいちいち開けるのは大変。そこで、ネットに電子ファイル化した傷寒論がアップされているのでこれを利用させていただく。ダウンロードしてプリントアウトして綴じればよい。条文だけで十分。15ページ程度に収まります。
・『漢方の臨床』を発行している東亜医学協会のHPの『電脳資料庫』にも傷寒論のファイルがあります。(http://aeam.umin.ac.jp/a/dennou.html) 『漢方の臨床』を購読してあげてください。私の師匠の井上先生もときどき投稿しています。
その他参考書
その他、サントが使った書物を挙げると;
・『漢方診療ハンドブック』(桑木崇秀): 記載が簡潔で、歯切れがいい文章で好きです。上の秋葉先生の本に載っていない方剤はこれを参照するとよい。
・『漢方治療の診断と実践』(水島丈雄): 水嶋塾での講義録です。以前、DVDで見せてもらったことがありますが、専門医受験を念頭において講義されていました。浅田宗伯の『勿誤薬室方函・口訣』もたくさん引用されています。講義録なのですこしまとまりに欠けますが、独自の観点から解説している部分が面白い。
・『勿誤薬室「方函」「口訣」釈義』(長谷川弥人): 浅田流漢方を知るにはとてもいい本です。それぞれの方剤について、浅田宗伯が自分の考えを簡潔に解説している。上の矢数先生の本と一緒に読むか、ツムラのサイトに偉い先生の解説がpdfとしてあるのでそれをダウンロードして読むとよい。
・他、『臨床応用傷寒論解説』(大塚敬節)、『金匱要略講話』(大塚敬節)、『黄帝内経素問上中下、霊枢上下』(東洋学術出版)、『神農本草経解説』(森由雄)、『難経解説』(東洋学術出版)、『易』(本田濟)、『漢方210処方生薬解説』(じほう)etc.とか読みましたが、試験には直接の役には立ちませんでした。